地蔵講

今日は地元有志による地蔵講。朝9時にお地蔵さんに集合し、お坊様の読経に続き全員で般若心経を唱える。法要後は会館に移動して懇親会。

この地蔵講、亡き父も発起人の一人であったらしい。当初は、父の同級生を中心に10名程が地蔵前に集まり、一日飲み明かしたという。当時は地蔵講ではなく、「おこもり」と呼ばれていた。子供心に「おこもり」の記憶はある。母親は一日飲んだくれている父やその友人に眉を顰める場面もあったが、何となく親父たちの気持ちは伝わってくる。

太平洋戦争の末期、1942年八王子は米軍の空襲を受けた。多くの市民が焼夷弾の炎で命を落とした。その中に、父たちの友も多かったことだろう。空襲を生き延びて自由な空気を謳歌する父たちが、空襲で命を落とした友のことを思わなかったはずはない。父からは「おこもり」の意味を聞くことはなかったが、幼くして死んだ友の供養。これが「おこもり」の出発点ではなかったかと思っている。

この地蔵講、誰でも参加できるというわけではないのだ。地蔵講の講元からお声がかかりメンバーに加えてもらって初めて参加できるのである。何となく、秘密結社の様ではあるが、公平が必要以上に叫ばれる現代、このような閉鎖性は残っていてもいいのではないかと思う。

点前の理想

以前に、茶の湯の点前はパフォーマンスか?ということに関するブログを書いたと思う。私の、今現在の結論は「否」である。茶事という侘びのおもてなしを俯瞰すれば、亭主は給仕を第一義としていると見える。山田宗徧の著作『茶道便蒙抄』でも、客は亭主に「自ら膳を運ぶのではなく、通い(半東)をお出しください」とことわりつつも、亭主は全ての膳を運び出すべしと言っている。給仕に徹すべしと。

この延長で考えると、後座の喫茶での亭主も少なくとも濃茶を出すまでは給仕に徹すべきなのではないかと考える。つまり、点前に集中すべし。しかし、給仕に徹する点前とパフォーマンスとしての点前は自ずと異なるはずである。

いまのところは、空気のような点前を目指している。客が気がついたら茶が点っていたというような。どこにも気負いや衒いのない、空気のような点前。これが現時点での理想である。そして、一旦茶がでたら、対話を大いに楽しみたいと思う。

小唄のある風景

小唄はどこで聴けるのか? 意外に難しい問題です。長唄や清元、常磐津のような浄瑠璃は歌舞伎の舞台音楽(つまりBGM)なので、芝居を観に行けば聴くことができますし、演奏会もあります。端唄は、ポピュラーなので、意外に日常的に演奏されてるような気がします。

そこで、小唄。稽古場を除けば小唄が聴ける場所は、演奏会かお座敷のどちらかです。演奏会は、各流派、連盟が大きな演奏会を催しています。東京では、三越劇場が演奏会場として最も有名です。

小唄に特徴的なのは「お座敷」です。和風の座敷で会席料理が出され、和服の芸者さんがお酌をしたり話の相手をしたり、「お座敷」と言って踊りを披露してくれるアレです。お座敷では、端唄もよく唄われますが、これは芸者衆が踊りを披露する際の音曲として唄われますので基本芸者衆(地方)の担当です。それに対して、小唄は客(旦那衆)が唄います。もちろん、端唄を唄うこともありますが、物足りないと思うのです。

それは、端唄がある種の流行曲であるので、真面目に習わなくても唄える曲が多いという理由からです。要は、カラオケのようなもの。小唄は、師匠について真面目に稽古しなければとてもじゃないですが、人前で唄うことはできません。それ故、素人のお座敷芸として重みがあるのだと思っています。私の場合、小唄一曲を仕上げるのに少なくとも3、4ヶ月は要します。それでも、師匠の三味線で唄う(唄わされる)のが精一杯です。小唄の三味線は伴奏ではないので、唄は歌い手の勝手で伸びたり縮むのは日常茶飯事。三味線の名手は、唄の乱れを巧みに吸収して、さらには正調なリズムにさりげなく誘導したりできます。だから、初めての三味線弾きと合わせるのは、正にぶっつけ本番。内心冷や汗ものなのですが、それ故に上手く唄えた時の達成感は半端ないです。

その達成感は、三味線を弾く芸者も同じで、そこに客と芸者の信頼関係が出来上がります。芸を磨くものとして、共通の土台で話ができるようになるわけです。誰でも、自分と価値観を共有できると人との方が親しみやすいですよね。そういう意味で、花柳界でモテる一つの方法は、芸を磨くことです。なんでもいいのですが、できればお座敷で披露できるもの。となれば、小唄にトドメを指します。

我が街八王子には古くから花柳界があります。織物で栄えた街らしく一時は100名を超える芸妓がいたそうですが、今は20人に足らずというところでしょう。だからと言って、衰退しているとは言いません。皆、時間を惜しんで真面目に芸を磨き、そのレベルは日本屈指と言っていいと私は思います。

機会があれば、獨楽庵主催で花柳界入門イベントを開催してみたいと思っています。