小唄のすすめ

小唄というと「お座敷小唄」や「ラバウル小唄」を思い浮かべる方も少なく無いと思いますが、今回の話はそういう「なんとか小唄」ではなく、あえて言えば「江戸小唄」です。三味線を伴う邦楽は、長唄が成立して以来、主に歌舞伎の舞台音楽として発展してきました。小唄はその末裔ですが、歌舞伎で使われることはなく、主に座敷を主戦場としてきました。なぜなら、「小」というがごとく短いからです。大半の小唄は2、3分の小曲です。

お座敷は、「粋(イキ)」を競う場所でもあります。粋は小さい、短い、細い・・・ことに現れます。大層なことを、そのまま大きく、長く、太く見せてしまうのは「野暮」です。その対局が「粋」なのです。小唄は短い作品ですが、邦楽の末裔らしく邦楽のあらゆるエッセンスが詰め込まれています。しかも、作詞・作曲者がきちんと残されている。ですから、師匠についてしっかりと稽古しなければなりません。私は先輩から「師匠から許しを得た小唄以外は唄ってはならない」と教わりました。実は、小唄は「大層」なのです。「小唄と端唄はどこが違うのですか?」とよく聞かれますが、ここが違うのです。

さらに、「小唄を習うメリットは?」と尋ねられます。好きだから習っている。というのが本音ですが、小唄を習う前の方々には、こういう説明も必要なのでしょう。あえて考えると ①お座敷でモテる ②邦楽の入り口 があります。①のモテる話は別の機会に。②の邦楽の入り口(現代的に言えばゲートウェイ)は意外と気づかないものです。

先にも書きましたが、小唄には邦楽のエッセンスが散りばめられています。長唄、清元、常磐津の有名な一節が入っていたり、現代的な歌詞であっても節(メロディー)が清元であったりということは多々あります。ですから、小唄を習うにつれて気に入った節回しがあったら、その原点をしらべてみることで、邦楽に深く親しむきっかけとなります。

「唄」ですから、自分の声で一人で唄わねばなりません。ここに抵抗がある方は、まずは三味線からはじめてみては如何でしょう。三味線の稽古といっても、想像はつかないですよね。参考までに、私の稽古風景をアップしておきます。

獨楽庵では、毎月第二、第四木曜日に小唄松峰派家元・松峰照師匠(画像左)に出稽古にきて頂いています。見学は随時受け付けています。気軽にどうぞ。

松峰小唄 「手紙」

先日、松峰照家元と話していて意外だったのが、松峰派の外で人気のある松峰小唄。松峰派は昭和になって旗揚げした小唄界にあっては新派に属する。そのため、新曲を得意とし、先代松峰照師が作曲した小唄は二百を超える。どれもが、現代に生きる我々にも共感しやすい歌詞であるのと同時に、清元や新内の節をうまく取り入れて舞台映えする作品が多い。セリフ入りが多いのも特徴の一つである。

そんな中で、松峰派の外で人気のある作品として挙げられたのが「手紙」。作詞 茂木幸子、作曲 松峰照 昭和53年の作品である。

“秋ですね 月の青さが切なくて 思わず手紙を書いてます あんな別れをしたままで素知らぬふりして気に病んで 意地で堪えているものやっぱり貴方が恋しくて 一人でお酒を呑んでます“

この作品でも、やはり女は強いのである。あんな別れとは、痴話喧嘩の果てに女から別れを突きつけたのだろう。それを悔いながらも、「素知らぬふり」をして堪えているのだ。意地で。でも、忘れられずに酒を呑みながら、手紙を書くのである。どんな内容かは想像にお任せする。

地元の花柳界の芸妓の一人が、「手紙」の振りを持っている。彼女の振りによれば、「手紙を書いてます」のところは巻紙に筆である。それも良い。が、昭和の女である。万年筆が似合うのではないかと思うのだ。

画像は、内容に関係ないフェルメールの「手紙を書く女」

リアル猩々😊

今年になって、獨楽庵に来庵されるお客様が手土産にお酒をお持ちくださることが多くなりました。懐石にお酒はつきものですので、とても嬉しい陣中見舞いです。お陰様で、獨楽庵は酒が尽きることがありません。酒が尽きぬといえば、能「猩々」

『よも尽きじ。万代までの竹の葉の酒。汲めども尽きず飲めども変はらぬ。秋の夜の盃。影も傾く入江に枯れ立つ。足もとはよろよろと。弱り臥したる枕の夢の。覚むると思へば泉は其まま。尽きせぬ宿こそめでたけれ』

親孝行で有名な男、高風があるひ「揚子の市で酒を売れば家は栄える」という夢を見た。高風が揚子で酒を売るようになると店は大いに繁盛し、富を得ることができた。その高風の店に毎日やって来て酒を飲んでも顔色が変わらない男がいるので名前を尋ねると「猩々」と名乗り消えていった。そこで高風は月の美しい夜にしん陽の川のほとりに酒の壺を置いて猩々が現れるの待つと、やがて猩々が現れ友との再会を大いに喜び、酒を酌み交わす。猩々は高風の素直な心を誉めて、汲んでも酒が尽きない壺を与え消えていきます。

獨楽庵はまさに、「尽きせぬ宿」となっております。皆様に感謝。そして、「めでたけれ」。

獨楽庵亭主は、令和7年11月24日、銀座・観世能楽堂で開催されます松響会東京大会にて能・猩々のシテを勤めます。入場無料です。銀座にお越しのおりには、是非お立ち寄りくださいませ。