忠度

能で最も好きな曲は何か?と問われると、難しい。しかし、最も好きなキャラクター(シテ)は誰かと問われれば、平忠度と即答できる。

薩摩守平忠度は、平忠盛の六男にして、平清盛の異母弟である。母は藤原為忠の娘。藤原為忠は、歌人として有名で新古今和歌集などにも入集している。その血を引いた平忠度も歌に優れまさに文武両道を極めた武将である。千載集には「漣や志賀の都は荒れにしを 昔ながらの山桜かな」が撰ばれたが、「朝敵」とされたことから「読み人知らず」として掲載されている。これが、「忠度」の妄執となるわけであり、それを題材に、「忠度」と「俊成忠度」という二曲が書かれている。

平忠度は、一ノ谷の戦いで、源氏方の武将・岡部六太忠澄に討たれるのであるが、その最後があまりに印象的。忠度は、右腕を切り落とされながらも、左腕で相手を投げ倒しなおも戦おうとしますが、哀れ討たれてしまいます。その忠度の甲冑の箙に結び付けられていた一首「行き暮れて木の下かげを宿とせば 花や今宵の主なるまし」が、能のテーマとなっている。

自らの歌が撰ばれながらも朝敵なるが故に「読み人知らず」して載せられたことが妄執となり成仏できない。歌人として名を残そうとする”文”の忠度。合戦において、退散しようとするなか名乗りをあげられて戦に戻る。武士としての名を重んじる”武”の忠度。最後は、右腕を切り落とされながらも果敢に戦おうとする”武”。まさに、文武両道の極み。

源平合戦。判官贔屓といわれようと、滅びる平家には美しい武将が少なくない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です