去る9月10日、人生ではじめて能面をつけて能舞台(銀座・観世能楽堂)に立ちました。能面を通しての視界は想像以上に狭く、限られた視界(情報)を頼りに、自分の立っている位置を頭に描くという行為に、ことのほか脳のパワーをとられてしまいます。
そうすると、頭の中で順番を確認しながら舞うということが出来なくなり、途端に舞が崩れます。この感覚、どこかで味わったことがあると思ったら、灯台下暗し茶道でした。
茶道宗徧流11世家元・幽々斎宗匠からは稽古の時に、「下を向くな」「茶碗を覗くな」と指導されます。そして、稽古場は明かりを消した薄暗闇。明かりは蝋燭の火だけです。このような状態で点前をすると、自分がいかに視覚に頼って点前をしていたかを思い知らされます。もちろん、道具を扱うわけですから目をつむって点前をするわけにはいきません。しかし、視覚に頼りすぎてもいけません。例えば、濃茶を練るとき、視覚に頼るとどうしてもお茶の状態を目で確認しようとしてしまいます。しかし、それでは茶筅を通して伝わる情報を逃してしまいます。本当に大切なのは練り加減で、それは目よりも指のほうが敏感に感じられるはずなのに。
そうするには、濃茶を練るという点前が型として体に染み付いている必要があります。考えながらでは、指の感覚が鈍るからです。能もおおらくそういう事だと思います。視界は必要。しかし、視界に頼っていては舞が乱れる。成立しない。
あと2ヶ月。舞を体に染み込ませることはできるのだろうか。
松響会・東京大会本は
日時 令和7年11月24日(月・振替休日)
会場 観世能楽堂(GINZA SIX地下3階)
入場料 無料(出入り自由)
私は、『猩々』のシテを勤めます。番組的には、おそらく最後(トリ)になると思われます。お近くにお越しの折には、どうぞご笑覧くださいませ。