ひねりも何にもないテーマで申し訳ありません。10月25日(土)、伊勢神宮で行われた茶道宗徧流家元献茶式に参列するため、今週末は伊勢に滞在していました。そうなると、自然に頭に浮かぶのは小唄「お伊勢参り」。
”お伊勢参りに 石部の茶屋であったとさ 可愛い長右衛門さんで 岩田帯を締めたとさ エッサッサの エッサッサの エッサッサのサ”
小唄を嗜んだ方であれば、ほとんどの方が初心者の頃に稽古なさったと思います。小唄でも一、二を争うポピュラーな楽曲です。この曲は、浄瑠璃の『桂川連理柵』を題材にしています。長右衛門とは、京都の呉服店帯屋の主人、45歳。お半は、隣家信濃屋の娘13歳。この二人が、お伊勢参りの帰り道、石部(琵琶湖の南、東海道の石部宿)で偶然会ったことからただならぬ仲となり、お半は身籠ることになります。とても世間が容認できる仲ではありません。二人は悩んだあげく、帯祝いの日(妊娠5ヶ月に岩田帯を締めるお祝い)に桂川で入水心中を図るという悲恋の物語です。
これを題材にした浄瑠璃をテーマにした小唄です。聴衆はもちろんこの物語を知っているという前提です。こういう、聴衆のリテラシーを前提にした芸術は日本の定番ですね。それはともかく、この悲劇を陽気な節に乗せているところが、江戸っ子らしさ、小唄らしさだと思っています。悲劇だから、思いっきり悲しく演じるのは江戸っ子の趣味ではありません。
「いわずもがな」「それを言っちゃーおしめーよ」は江戸っ子の矜持であり、その心持ちは東の茶の湯に息づいていると思うのです。

