伊藤あおい選手

二十歳の日本人女子プロテニスプレイヤー。現在WTAランキングは、キャリアハイの127位。昨年は、417位だったので今シーズンは大躍進。来年は100位以内も視野に入る注目すべき選手。名古屋市出身。中学校はなんと“八王子“中学校! だからという訳ではないが、とても気になる選手である。

その理由は、彼女のプレイスタイルにある。伊藤選手は、右利きでフォアハンドはシングルハンド、バックはダブルハンドという標準的。だが、プレイスタイルは唯我独尊。フォアハンドを強打する選手が多い、女子プロテニス界であるが、伊藤選手はフォアハンドを8割型スライスで打つ。フォアハンドスライスはウッドラケットでテニスを始めたアラ還世代にとっては珍しくなく、アプローチはほぼスライスで打つ。だが、伊藤選手は、ストロークの8割をスライスで打つのである。これはパワーテニス全盛のプロテニス界ではかなり異質。

ダブルハンドのバックハンドはライジング(ボールが跳ねて頂点に達する前に打つ)。このコンビネーションは強力な武器になっている。スライスはトップスピンのボールに比べ急速は遅いが、バウンドが跳ねずに、むしろ滑るような球になるので相手は返球しずらいという特徴がある。伊藤選手は、このスライスを相手のアドコート深く送り相手が甘くクロス(つまり伊藤選手のバックハンド側)に返してきたところをライジングでストレートに打つ。これはスライスとライジングという究極の緩急で、対戦相手はわかっていててもウィナーを取られてしまう。

この伊藤選手の攻撃の基本である緩急は親父プレイヤーも見習いたいものである。そのためにはライジングの習得。ライジングで打つということは、普通に打つよりもコンマ数秒早く打つことになる。つまり、相手の対応する時間的な余裕を奪うということで、この「時間を奪う」ということはテニス戦略の基本だと思う。どんなにいいボールを打っても相手に構えられてしまえば、いいボールどころか強力な返球が待っている。逆に時間を奪えば相手は十分な態勢で返すことができないので、甘いボール帰ってくる確率も高い。

とりあえず、来年の目標はフォアもバックもライジングで打つこと。

小唄『まんざらでもない』

春に向けて新しい唄の稽古を始めました。お家元から、「照正(私の芸名、松峰照正)さんは、女心の唄がお好きだらか」ということで、この曲が課題になりました。

“そんなつもりもないくせに そんなつもりの顔をする そんなあなたと知りならがら まんざらでもない 春の宵“

「そんなつもり」という句が繰り返されますが、臍を曲げている女の姿が浮かんできます。“そんな“は、人それぞれでしょうが、つもりも無いのに、そんな顔をする。昭和のテンプレではないでしょうか(笑)女性は全てお見通しなのに、男は咄嗟の素振りで誤魔化そうとする。女は、「そんなあなたと知りながら」。「お見通しですよ!」と。

でも、それが“まんざらでもない“。やはり、春はいい。

とともに、女の手のひらに乗っていた方が、万事幸せなのかと。

松峰小唄『雪の南部坂』

赤穂浪士討入、忠臣蔵に関連した小唄がもうひとつありました。灯台下暗し。茂木幸子作詞、初代松峰照作曲『雪の南部坂』(昭和61年)です。

これも松峰派を代表す大曲(小唄の大曲というのも変ですが)で、題名のとおり忠臣蔵の名場面のひとつである「南部坂の別れ」を唄った作品です。

”降りしきる雪は巴の南部坂 寺坂一人共に連れ 今宵に迫る討入に 他ながらのいとまごい (セリフ)「おお、蔵之助か 久しゅう待ちかねました」 昔に変わる御姿 思わずはっと胸せまり言うに言われぬ苦しさに (セリフ)戸田殿 この袱紗包は絵巻物 御機嫌直りしその頃にきっと開いて御目ににかける様」 瑤泉院の御嘆き その御涙背に受けて 一夜明くれば喜びに変われと打ち込む山鹿流”

セリフが特徴の松峰小唄ですが、この曲は特に多く曲のおおよそ半分がセリフです。それはさておき、松の廊下の事件のあと、浅野家はお取り潰しに。内匠頭の妻、瑤泉院は実家にひきとられますが、その実家が南部坂です。討入の当日、最後の別れに瑤泉院を訪ねた蔵之助は、吉良家の忍びの者がいることを用心して、討入のことは頭にないふりをして暇乞いをします。それを見た瑤泉院は腹をたてますが、蔵之助はいいわけすることもなく袱紗包を置いて屋敷を後にします。この袱紗包みこそ四十七士の連判状でした。