『茶道便蒙抄』 〜 膳

宗徧流初代、山田宗徧が著した本邦初の茶道指南書『茶道便蒙抄』から気になった記述を紹介したい。『茶道便蒙抄』は、亭主の心得、客の心得は別章に書かれているので、両者を併記すると面白い。

初座(炉)において、炭点前が終わり膳が運ばれる際の作法について。

亭主の心得
客の勝劣によらず亭主膳を持ち 勝手口につくばひ障子をあけ膳をすゆる。寒き時は障子を立べし。さて引物は客同輩ならば給仕人持ちて出ても正客の前に必ずおきてよし。その時汁なくば伺ひ替えてよし。

客の心得
主かならず膳をすゆるなり。ぞの時かしこまり「御給仕過分のよし」申し。膳を中に請取り載き下に置。その時次の客「御給仕は御無用になされ御通ひを必ず御出しあれ」と申してよし。然れども下座までも茶主膳をすゆるなりその時客一同に 「必ず御通ひの者を御出し候て。御食まいるべき」由を申べし。

客の身分によらず、膳は亭主が運ぶのが原則。面白いのは、客は膳を受ける時に「給仕=半東をお出しください」と、亭主自ら膳を運ぶにはおよばずと申し上げる(これは、すべての客同様)。しかしながら、侘び人は亭主がすべての膳を運ぶべきと書かれている。客の給仕を云々の口上は、山田宗徧にしては冗長であるように思えるが、宗徧がこの書を著した時は、徳川家譜代大名の名門小笠原家の茶頭であったので、武士階級ならではの格式があったのだろう。

重要なのは、どんなに客に給仕を出すように勧められても、それに反して全ての膳を亭主が運び出すこと。侘びのおもてなしの精神が最も顕著に表れている部分であると思う。料理の内容は貧しくとも、亭主自らが給仕することが侘びを成立させている要件なのだと思う。

とんかつ

トンカツはここと決めている店があります。正確にいうと、チキンカツですが。西武多摩湖線一橋学園駅にある「藤乃木」という店です。

大学に入学して、運動部に入部し練習後は先輩、後輩と夕食を囲むのが日常でした。そんな時の有力な選択肢の一つがこの「藤乃木」。この店の名物は、大根おろをを乗せた「ふぶき」というスタイルであるが、我々の一番人気は「チキンカツ」。当時のチキンカツというと脂身のないパサパサしたものが多かったが、ここのは皮の部分を活かしジューシーでサクサクに仕上がっている。もちろんボリュームもある。

まずは生ビールで喉を潤し、チキンカツ定食(低学年の頃はご飯大盛り定番であった)で腹を満たす。大学を卒業しても、床屋はキャンパス界隈の店に通い続けていたので、床屋に行くついでにチキンカツ、ビールが楽しみの一つでした。それが、突然の閉店。正確には移転とのことです。この店は、創業者の大将が引退し、当時の店員が後を継いでいたのですが、何かあったのか?

学生当時、通っていた中華料理屋、定食屋はすでに無く。今回、とんかつ屋も。そういうことであれば、キャンパスさえも、この地にはありません。残るは、床屋だけ。40年以上も頭と髪の毛を見てきているので、細かな注文せずとも、それこそ阿吽でカットしてもらえるのがありがたいのですが、いつまで通えるか。とんかつ屋がなくなって、ちょっと弱気になってます。

所詮小唄、されど小唄

小唄の稽古に誘うと、大抵は拒否される。四半世紀前、私が小唄の世界に足を踏み入れた頃は、半ば強制的に習わされたものである。

私の場合は、ある時、地元の先輩であり小唄の泰斗であるハーさんから会社に電話があり、「いまから遊びに行ってもいいか」と。断るどころか大歓迎。しばらく世間話をしたところで突然
 ハーさん 「じゃあ、行こうか」
 私 「どこに行くんですか?」
 ハーさん 「ついてくれば分かる」

で、行った先が小唄の稽古場で、即稽古が始まり入門が決まったというオチ。その時の師匠のもとは15年ほど前に辞し、いまは小唄松峰派二台目家元 松峰照師匠に師事している。そんな流れで小唄の世界に入ったので、誘われたら云々などど言っている猶予はなかった。

そんな経験が根底にあるので、「誘われるうちが花」という言葉の意味みもよくわかっているつもりである。その上で、知人を小唄に誘うとほぼ100%敬遠される。理由の多くは「俺は(私は)音痴なので・・・」というもの。「音痴の原因はキーがあっていないことで、キーさえ合えば音痴は発生しないと」と説明しても、閉じた耳には届かない。

そこで一案、「小唄」とはいうものの、三味線から入ったらどうだろうか。小唄の三味線は唯一撥を使わない。人間が生まれながらに持っている「撥」つまり、「指」を使って弾くわけである。これを「爪弾き」と称するが、実際には爪だけでなく、爪の横の肉もつかうようではあるが、初心者は爪にあれてばとりあえずそれらしい音は発することができる。加えて、小唄は短い。短いものは1分程度である。だから、長歌などの段物にくらべてずっと早く一曲を仕上げることができる。

邦楽に少しでも関心があって、「歌」に二の足を踏んでいる皆さん。三味線は如何ですか?