柳橋から

“柳橋から小舟で急がせ 山谷堀 土手の夜風がぞっとみに沁む衣紋坂
君を想えば あわぬ昔がましぞかし どうして今日はござんした
そういう初音を聴きにきた“

柳橋とは江戸イチの花街であり、吉原遊廓の表玄関でもある。当時の粋人は柳橋から猪牙舟で隅田川に出て、山谷堀を上り日本堤に到着。そこから衣紋坂をを登って吉原大門に向かっていたらし。

まだ春浅い陽気。柳橋でいい調子で飲んでいたら、衣紋坂に辿り着く頃にはすっかり陽も落ち、川風の冷たさが身に染みるというのである。衣紋坂を進んでいると、馴染みの遊女に見つかり、軽く嫌味も加わり「今日はどういうわけでいらっしゃた」と問い詰められる。遊女も遊女で、この男に逢いたい一心でいたところに偶然出会ったので飛び上がるほど嬉しいはずであろうが、それを隠して(隠せないだろうが)つれない素ぶり。

そんな遊女の気持ちを知ってか、知らずか、男は「そういう愚痴を聞きにきたのさ」と軽くいなす。もちろん、「愚痴」などと野暮な言葉は使わずに、「初音」と洒落るところがいかにも小唄らしい。

梅は咲いたか

まだ春浅いこの頃。主役は梅です。梅にちなんだ小唄も沢山あります。その梅もやがて桜に主役の座をとって代わられます。その時期の歌でしょうか。

“梅は咲いたか桜はまだかいな 柳やなよなよ風まかせ 山吹や浮気で 色ばっかりしょんがいな“

この時期のお座敷の定番です。さらに桜が満開になると“夜桜“。桜は人を狂わすといわれますが、夜桜見物の人出を歌ったものです。初春の梅は、寒さもあり凛とした気分にさせますが、桜の頃には陽気も落ち着いて、浮かれたくもなります。早く桜の時期が来て欲しいと思う反面、今の梅の時期も捨てがたいものがあります。

しばらくは、真面目に梅と対峙することにしましょう。

梅一輪

獨楽庵の梅が一輪咲きました。去年より10日以上遅い開花です。

小唄「梅一輪」
“梅一輪 一輪ずつに鶯の歌い初め候 春の景色もととのうままに 実は逢いたくなったのさ“

出だしは、松尾芭蕉の弟子・服部嵐雪の「梅一輪 一輪ごとのあたたかさ」から。格調高く始まる。梅が一輪また一輪と花開くとともに、どこからか鶯の歌い初めが聞こえてくる。春まだ浅き気分が伝わる。で、なんだかんだ言い訳しながら、「実は逢いたくなった」という本心。しかし、そこは逢いたいという気持ちを抑えつつ、「逢いたくなったのさ」と。最後の「さ」がこの唄の肝かもしれない。