三越劇場

日本橋三越本店内にある「三越劇場」は、古典芸能の聖地と言っても差し支えないでしょう。特に、「小唄」では。

その三越劇場で、令和6年4月14日(日) 小唄松峰派樹立55周年記念演奏会が催されます。小唄は江戸の末に、二代目清元延寿太夫の娘お葉が、二代目延寿太夫贔屓にしていた松平不昧公の歌に節をつけたものが始まりと言われている、三味線邦楽の小曲です。

不昧公の歌は「散るは浮き 散らぬは沈むもみじ葉の 影は高尾か山川の水」。この最後の句を「水の流れに月の影」としたのが秀逸であることは言うまでもありませんが、曲が優れていなければ小唄というジャンルは後世に続かなかったでしょう。何事も先駆けとというのはそういうものなのかもしれません。

翻って、我が松峰派。昭和45年の小唄酣春会にて竹枝せん照が小田将人の詩に曲をつけ「雪灯り」として披露したのが始まり。その翌年、せん照は松峰照を名乗り「松峰派」を樹立します。その様子については、小唄の先哲 八海老人のブログがふるっているので、ご参照ください。

4月14日の記念演奏会は、全番組松峰派のオリジナル曲。私は第一部で「雨の宿」「一人暮らし」を、番外で「未練酒」「好きなのよ」を唄います。番外は、八王子芸者の小唄振りつき。お近くにお越しの節には是非お立ち寄りくださいませ。

初雪

昨日、東京も初雪が降りました。例年より10日遅い初雪だったそうです。ここ数日、日中は冷え込みを感じますが、それでも暖かいのですね。

有名な小唄に「初雪」があります。小唄を習ったことがある人でしたら、よくご存知だと思います。

「初雪に降りこめられて向島 二人が中に置炬燵 酒の機嫌の爪弾きは 好いた同士の差し向かい 嘘が浮世か浮世が実か 誠くらべの胸の胸」
初代清元菊寿太夫詩・曲

いい仲の二人、向島でお忍びで逢っている最中に雪が降り出し、これ幸に?長居しようか・・・という雰囲気です。女の三味線は爪弾き。ということは、唄っているのは小唄です。差し向かいで酒をさしつさされつ、相手の心を探る。小唄の三味線は伴奏ではありません。つかず離れずがいいとされています。だから、お互いの心を探りつつ駆け引きがあるのです。

小唄松峰派『松韻会』

小唄の話題が続いて恐縮です。去る11月17日、新宿で小唄松峰派の『松韻会』が開催されました。『松韻会』、社中の男性の発表会・勉強会です。

私は、第一部で『未練酒』と『好きなのよ』を。第二部で『雨の宿』と『一人暮らし』を唄いました。どれも、来年4月の松峰派樹立55周年演奏会で唄います。『未練酒』と『好きなのよ』は、八王子の芸妓衆が振り(小唄振り)をつけて色を添えてくれることになっています。この小唄振り、広く知られている古典(古曲)のいくつかには振りがついていて、各花柳界で大事に受け継がれています。松峰派は新曲なので小唄振りがついている曲はまずありません。今回も、踊りのお師匠さんにお願いして振りをつけてもらっています。どんな振りになるのか今から楽しみです。

松峰派の唄には、セリフや三味線と離れて「アカペラ」で唄う部分がある曲は数多くあります。『未練酒』はその代表作で、「おまえお立ちか お名残惜しい」。短い文句ですが、たっぷりと情感豊かにアカペラで。聞かせ処です。

小唄〜『雨の宿』

「灰皿の煙草に残る紅のあと つい言いすぎた痴話喧嘩 もうこれっきりと言い捨てて 帰っ女の残り香が 未練心をかき立てて 音もなく降る雨の宿」

小唄松峰派代表曲のひとつです。小唄という邦楽ジャンルは江戸末期に誕生し多くの作品は明治、大正期に作られました。そんな中で、松峰派は初代松峰照師が昭和40年代に樹立。来年はその樹立55周年を祝う演奏会が三越劇場で開催されます。

私も、松峰照正として舞台に上がりますが、今回は『雨の宿』『ひとり暮らし』を唄います。番外の小唄振りでは『未練酒』『好きなのよ』をと、合計4曲を唄うことになり稽古に励んでいます。小唄振りとは、小唄に合わせて芸妓が振りをつけることを言います。お座敷で成長してきた小唄らしい出し物と言えると思います。

冒頭に書いたのは『雨の宿』の歌詞です。昭和も40年代になると女性の社会進出が進み同時に男女の間柄も変化してきていることが歌詞からも読み取れます。まず、「煙草に残る紅のあと」。立ち去った女性が残した煙草です。そして、女性は「もうこれっきり」と自分から縁を断ち切って去っていきます。戦前、ましてや江戸時代にはあり得なかった情景なのではないでしょうか。小唄を四半世紀嗜んできて、古典が描く男女の情景にどうしても共感できなかった身にはすーっと入ってくる世界です。

写真は、稽古のあと稽古場近くのタップルームで頼んだ「Masterpiece Dual」と命名されたAmerican IPA。名古屋のY Market造。いかにもAmerican IPAなホップのトロピカル感とガツンとくる苦味。アルコール度9.0とかなり高め。アブナイ。

小唄

小唄ってご存知ですか。

「祇園小唄」とか「ラバウル小唄」などは有名ですよね。でも、今回のお題はそのような◯◯小唄の事ではありません。敢えて言えば、江戸小唄。

江戸末期、二代目清元延寿太夫の娘お葉が、松平不昧公の歌に節をつけたのが始まりと言われています。概ね3分程度の小曲ですがイキな江戸っ子好みに仕立てられた作品が多いのも特徴です。清元はもちろん、芝居の名台詞や長歌、一中節、新内節の一節が引用されている曲も多々あります。

元々、小唄は座敷で芸妓による歌や踊りを楽しんだ後、口直しに軽く唄うのをよしとされていたので、ひと目につく機会が少なく、聴いた事がある方も少ないと思います。

そんな小唄ですが、私はかれこれ25年稽古を続けています。写真は、先月準師範のお許しを頂いた時のものです。