小唄松峰派 「松韻会」

小唄松峰派の男性の研修会。今年は、男性の出演が少なかったので女性陣も参加して新たに広尾にお目見えした小規模かつ上質な音楽サロンにて開催されました。

二部構成で、第一部は女性も唄ったり、あるいは三味線を弾いて男性が唄ったり。いわばおさらい会。第二部は松峰照家元の三味線で男性が唄う、「マジ」な会。私は第一部では、女性の三味線で『未練酒』を、第二部では照家元の三味線で『言わなきゃよかった』を唄った。

『未練酒』は、松峰派を代表するオリジナル曲で、他流でも舞台で唄われることが多い名曲。先日、八王子で開催された「芝ゆき会」でも披露した。不倫の果ての別れ話。🎵どうにもならない、二人が仲 を温泉宿で語り尽くした男と女。泣きつくして”涙も枯れた”女を残し、宿を立つ男。出て行く(妻のもとに戻る)男を背中で送り女は酒を飲む。🎵女心の未練酒。この曲、終盤に「おまえお立ちか お名残惜しい」と『おたち酒』が「あんこ」に入る。『おたち酒』とは、宮城県の民謡で、嫁ぐ娘との別れを惜しむ親心を歌っているが、ここでは、男との別れを嘆く女心を印象的に表現している。

二部では、『言わなきゃよかった』。これは、小唄の泰斗、今は亡きハーさんの十八番である。「言わなきゃよかった一言を 悔やみきれないあの夜の 酔ったずみの行き違い ごめんなさいが言えなくて 一人で聞いてる雨の音」 こちらは別れというより、痴話喧嘩か。酒の力か、心にもないことを口走ってしまったのだろう。男は腹をたてて部屋を出て行く。残された女は、あの一言を悔やみつつ、一人で酒を飲み続けるのである。

どちらの曲も、男が去り、一人残された女は酒で憂さを忘れようとする。『未練酒』はもう決定的な別れのようである。それに対して、『言わなきゃよかった』は、長い付き合いのなかでのちょっとした言い争いに聞こえる。次に会った時に、女はどういう表情を見せるのであろうか。仲直りして欲しいものである。

三味線

実は、25年前に小唄を習いはじめたのとほぼ同時に小唄三味線の稽古も始めている。最初の師匠である松風美く実師の見台開きには、番外で八王子芸者の小唄振りがあったが、その時の番組は『心して(鶴次郎)』。唄はハーさんこと今は亡き橋下氏。不祥、松風実優こと私が本手を、美く実師が上調子を弾いた。なんとか大きなミスもなく無事に大役を勤めることができた。

『心して』というのは、新派の名作『鶴八鶴次郎』を題材にし、春日よとが作曲した名作である。『鶴八鶴次郎』の鶴八は新内の三味線弾き。鶴次郎は太夫である。当然、『心して』も新内調に仕上がっている。

“心して我より捨てし恋なれど せきくる涙堪えかね うさを忘るる杯の 酒の味さえほろ苦く“ 。後弾きの上調子が印象的である。この唄を持って、春日とよは小唄春日派を樹立。春日派にとっても意義深い曲であろう。

話が逸れたが、ボスよりお許しが出たので来年秋の茶会では、小唄の弾き語りを披露(あくまで所望されればであるが)しようと思う。ということで、三味線の稽古を再開しますという話。

言わなきゃよかった

11月23日は、小唄松峰派の男性だけの勉強会『松韻会』である。このところ、建長寺の四ツ頭茶会とか、京都での能の稽古とか、獨楽庵での炉開きが続き、小唄の稽古がおろそかになっている自覚はあったものの、いざ当日の番組を決めるとなると俄かに浮き足立つのである。

師匠からは一曲は『未練酒』にと指示が。この唄は、先日の八王子・芝ゆき会でも唄ったので、まずは順当というところ。もう一曲はどうするか、師匠には『言わなきゃよかった』をリクエスト

”言わなきゃよかった一言を 悔やみきれないあの夜の 酔ったはずみの行き違い ごめんなさいが言えなくて 一人で聞いてる雨の音”

この曲も先代・松峰照家元作曲による松峰派オリジナル曲である。主人公は女。であるから、師匠も女性に唄わせてきたとのこと。ところが、我が街八王子では、小唄の泰斗ハーさんこと橋本さんのお気に入りとして有名。ハーさんの唄を聞いた、師匠(二代目松峰照家元)が「男性が唄うのもいいわね」と、以降男が唄う機会も増えている。

この唄も、他の松峰派の曲と同じく昭和の作品であるからして、女性が強いのである。よくある痴話喧嘩だったのだろう。ところが、酒が過ぎたのか言い争いになり、女も「ここは自分が引くべきか」とは思いつつも、意地を通して、喧嘩別れ。女は反省しつつ、雨音を聞きながら酒を飲むのである。このシチュエーション、世が世なら男の専売であろう。それが、昭和になると女の絵としてしっくりくるのである。