東京茶道会

去る、10月13日、音羽護国寺茶寮・東京茶道会10月の会に、茶兄の席を訪ねた。先代(母君)が同じ東京茶道会で席をもたれてから22年目と仰る。母君とは、何度か茶席でご挨拶させて頂いたが、とても柔和で江戸人らしく歯切れのよい方と記憶している。

その茶兄の席であるが、道具は母君の遺品を中心に。「月」のお軸に宗徧流十世四方斎好みの白雲棚。周囲から「月に白雲はいかがなものか」という異見もあったというが、珠光の「月も雲間のなきはいやなり」を持ち出し押し切ったというあたりは、茶兄の胆力を感じる。席全体は、母君のお好みらしく調和のなかにも一つ一つの道具に楔が打ち込まれている感があり圧倒される。

極め付けは、脇床に飾られた硯。書道家であった父君の遺品に違いない。茶兄は席中では父君のことには触れられなかった。やはり、男子にとって「親」とは母親なのかと密かに思う。母君が護国寺で席をもたれた22年前、茶兄は下足番をなさっていたと仰る。お茶に興味がなかったのであろう。それが、いまでは流儀を代表して護国寺の大舞台で席を開いていらっしゃる。「つなぐ」とはこういうことかと。その「つなぐ」という言葉の真意を母君のお道具。父君の硯で表現なさっていた。とても暖かく、それでいて凛とした席。

憧れである。

茶道宗徧流全国審心会総会II

去る、9月29日愛知県岡崎市にて茶道宗徧流全国審心会(他流では青年部に相当)が、お家元ご列席のもと盛大に開催されたことは、すでに書いたとおり。懇親会に余興にて、小唄を一曲なんちゃって弾き語りしたことも前回書いたとおり。

実は懇親会の余興はそれに留まらず、さらなる大役が待っていたのである。この総会を企画・運営したのは中京地区・審心会の役員の皆さん。年齢が近いというと思うが、相談役に祭り上げられあれこれと相談にのっているうちに、会長さんから次々とMISSIONが。一つが小唄。もう一つは、なんと「マツケンのええじゃないかII」を舞台で踊れというほぼIMPOSSIBLE MISSION。夏頃に会長さんから練習用YouTubeのリンクが送られてきて、「お稽古しておいてください」とのこと。リンク先のYouTubeを開くと、かの「マツケンサンバ」の振付師として名高い真島茂樹さん自らダンスを解説しているではないか。時を同じくして、真島さんが本年5月に亡くなっていたことも知った。

「人使いが荒いなあ・・・」と思いつつも乗り掛かった船なので、真面目に稽古に励んだ。おかげで、本番ではなんとかメンツを保つこと(☜何のメンツじゃ)ができたが、このダンスなかなハードで2回と繰り返すことができない。愛知県豊橋市では、この「ええじゃないかII」を盆踊りで市民が踊るらしいが、「豊橋恐るべし」と心底思った。

これを舞台上で、紋付袴で踊ったのだから、会場はさぞかし盛り上がったことだろう。
ええじゃないか。

白蔵主

去る9月15日に江戸川区立行船公園内の源心庵にて開催された『夕月の会』で薄茶席を受け持った。これは、十五夜に近い日曜日に、月見の風情で野点を楽しもうという趣向の茶会で、その添え釜として池の辺りの月見台を持つ茶室で薄茶席を担当した訳である。江戸川区という完全アウェーの席であったが、多くの獨楽庵友の会の方々に来場頂き、ホームの気分で席主を勤めさせて頂いた。この場をおかりして御礼申し上げます。

その席で用いた香合は、鎌倉彫の『白蔵主』。和泉の国(大阪府南部)の少林寺塔頭耕雲庵には白蔵主と呼ばれる僧侶がいて、稲荷大明神を信仰していたという。ある時、足を失った3本足の白狐をみつけ寺に連れ帰って保護した。この白狐には霊力があり白蔵主をおおいに助けたという。白蔵主には狩猟好きな甥がいたが、白狐は白蔵主に化けて甥に殺生を禁めるのであるが、正体を見破られ罠にかけられるがなんとか逃げることに成功したという。この故事が題材となって狂言「釣狐」が書かれたのは有名である。

その白蔵主に化けた狐が題材のこの香合。どこから見てもたぬきにしか見えない。席中お客様に「何に見えますか」と尋ねたところ、ほぼ100%たぬきとのお答え。まあ、いいでしょう。月には狸なのだから。