山田宗徧忌

3月17日(日)東京音羽・大本山護国寺にて茶道宗徧流関東地区主催、山田宗徧追善法要および茶会が催されました。

護国寺の大本堂は江戸元禄期の創建。同じ頃、山田宗徧は小笠原家の茶頭を辞し家督を娘婿の二世宗引に譲り一人江戸に下りました。江戸随一と称えられた護国寺大本堂を宗徧も参拝に行ったことでしょう。当日、本堂には百名を超える門人が入堂し立ち見も出る程。御導師、山内式衆の読経のもと流祖・山田宗徧の遺徳を偲びました。

いつもは満開で我々を迎えてくれる本堂脇の早咲きの桜は、すでに散りはじめていました。寒い日が続いているとはいえ、春はもうすぐそこまで来ているようです。

江戸に移った山田宗徧は、数年後「赤穂浪士事件」という世紀の一大事に遭遇することになります。吉良家、赤穂浪士双方に弟子・茶友をもつ宗徧にとって「赤穂浪士事件」どのように映ったか。想像に難くありません。その宗徧の心を思い、吉良家・浅野家の霊をともらうため宗徧流では毎年12月「義士茶会」を開催しています。一昨年は、ここ護国寺で開催。昨年は山田宗徧が晩年の一時期を過ごした静岡で。今年は、小笠原家ゆかりの九州・唐津です。

自論:フレンチイノベーション

フランステレコム(日本の電信電話公社にあたる)は、電話帳を印刷し配布し、電話番号と居合わせのオペレータを維持するコストを10年間試算した結果、各家庭にビデオテックス端末を配布し、それらをパケット交換網でサーバーに接続する方が安上がりと結論に達した(と言われている)。

そこで、トランスパックというパケット交換網をフランス全土に張り巡らした。パケット交換網というのは電気通信の一つの形態で、情報を細切れにし、蜘蛛の巣のように張られたネットワーク上にバラバラに流し、最後に結合させて元の情報に戻すという通信技術。現在のインターネットもパケット通信である。いわば、インターネットの原点のような通信網を1982年に完成させ、ミニテルという画面とキーボードが備わったオールインワンの端末を全家庭に配布しサービスを開始した。基本的には、電話番号帳を廃止し各自が電話番号を端末を使って検索するというサービスであるが、後に旅行代移転やレストランなどが相乗りし予約を中心に様々なサービスを提供するようになり、一大文化圏を構築するに至る。

現在の視点で見るとかなり原始的なサービスであるが、まさしくインターネットの原型を見ることができる。このサービス、当時は「ビデオテックス」と総称され各国の通信会社が先を競って実現を目指していたのであるが、どれも「実証研究」のまま頓挫している。フランステレコムのミニテルは、世界で唯一の成功例だと思う。

私は1980年代後半にフランスに在住していたので、もちろんこのサービスの恩恵に預かっている。フランスに入国して、部屋を借り、電話の契約を済ませると直ちにこのミニテルが送りつけられてくる。それを壁にあるモジュラージャックに差し込めがサービス開通。どのように使っていたかは忘れてしまったが、飛行機のチケットの予約はした覚えがある。これは、まさしくイノベーションであり、それもいかにもフランス的な。

前稿で、フランス人=ケチ=合理的 と書いた。ミニテルもまさしく電話帳を10年間出し続けるコストとパケット交換網を張り巡らし各戸に端末を配るコストを比べ、安い方を選択したのである。これぞフランス流と私は思う。

だから、シトロエンが「空飛ぶ絨毯」を実現するために余計なコストをかけるという発想はないし、その発想を受け入れる市場もないのである。ハイドロは唯一、全ての油圧系を一本にまとめコストダウンを図るということが道理であり、「空飛ぶ絨毯」その副産物にすぎないと、私は思う。それを金看板に持ち上げ、挙句最新技術を持って「空飛ぶ絨毯」を再現するなど本末転倒も甚だしい。そんなことでは、シトロエンのアイデンティティは保てないだろう。フランス流のイノベーション求められるのではないだろうか。

自論:フレンチ・イノベーション

首都高速を愛車(シトロエンC5ツアラー)で走っていたところ、その後継車であるシトロエンC5エアークロスとしばし並走することになった。こちらは時代遅れのステーションワゴン(フランス流に言えば“ブレイク“)。かたや今流行りのSUV。

愛車C5を一言で表せば、「最後のハイドロ・シトロエン」。車に興味のない方は「なんのこっちゃ?」だろう。簡単に言えば、普通の車のバネとダンパーの作用を、特殊なオイルとガスで代用したもので、一般には「魔法の絨毯」と称される浮遊感のあるソフトな乗り心地で有名。そのシトロエンの代名詞とも言えるハイドロニューマチックを搭載した最後のモデルが我がC5なのである。つまり、後継者たるC5エアークロスにはハイドロは搭載されていない。しかし、その乗り心地を再現するために、「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)という新技術を採用している。乗ったことはないが、おそらく同じような乗り心地を再現しているのだろう。

私はこのPHCという新技術を支持しない。なぜなら、それは1955年にハイドロニューマチックを世に問うたシトロエンの魂の曲解であるから。シトロエンは、「魔法の絨毯」を実現したくてハイドロを導入したのではない(と思う)。フランス人の根は「ケチ」(フランス人の皆さん気を悪くされたらごめんなさい)。ケチなフランス人が「空飛ぶ絨毯」を実現するために余計なコストをかけるはずがないし、それを受け入れるはずもない。ハイドロは、ステアリングを含め、パワーアシストを必要とする全てを一系統の油圧システム、すなわちハイドロニューマチックにまとめてしまおうというのが、そもそもの出発点であったはずだ。つまり、別々の油圧系統を持つよりも「安上がり」。これがハイドロの出発点。その後、種々のトラブルに見舞われ、ハイドロはサスペンションだけに残された。このあたりから、ハイドロ=サスペンション=「空飛ぶ絨毯」=シトロエン という図式に矮小化されていく。「空飛ぶ絨毯」こそ、シトロエンのアイデンティティになっていく。そのアイデンティティが、ハイドロを用いずに実現できるのであれば、信頼性を含めその方が好ましい(はず)。その帰結が、C5エアークロスに採用されているPHCである。

確かに「空飛ぶ絨毯」は実現できたのかもしれない。しかし、それがシトロエンというメーカーのアイデンティティだと考えるのは、下らぬ勘違いに過ぎない(と思う)。シトロエンのアイデンティティは「ケチ」なのである。言い方が悪ければ「合理性」なのだと思う。それを現代に再現しない限り、シトロエンのアイデンティティは薄まるばかり。やがて、泡沫に帰することだろう。

そこで思い出したのが、「ミニテル」。1982年に本格運用が始まったいわゆる「ビデオテックス」である。世界で唯一成功した「ビデオテックス」と言ってもいいだろう。

その「ミニテル」と「ハイドロ」の共通点は・・・話が長くなるので次回に。画像が、その「ミニテル(Minitel)」端末。