珠光茶会

3月11日、春の到来を予感させる陽気のなか、南都・奈良を尋ねました。目的地は薬師寺。3月6日からの1週間、奈良の大寺院を舞台に『珠光茶会』が開催されています。

茶道宗徧流は、京都支部が11日に薬師寺で濃茶席をもちました。西ノ京駅を降りて山内に入ると紅白の梅がアーチをつくり出迎えてくれました。獨楽庵は白梅は満開ですが、紅梅はまだまだです。濃茶席のお床は、江戸前期の茶人、土岐二三の「鶯」。そろそろ初音が聞こえる時期ですね。

「梅一輪 一輪づつに鶯のうたい初め候 春の景色もととのうままに 実は逢いたくなったのさ」(平山芦江作詞 春日とよ作曲)

なんとも、小唄らしい小唄。梅が一輪開くごとに春が近づく様を風流に唄っていたかと思えば、最後はストレートに「逢いたい」というオチ。

牡丹雪

雪が降ると、どういう訳か小唄を思い出します。

小唄松峰派の代表曲の一つ『牡丹雪』。時代はグッと下がって平成11年の作品。作詞は茂木幸子師。曲は、初代家元松峰照。

夜更けていつか牡丹雪 帰さないよと降りつもる 差しつさされつ盃を 片手に聞いてる明がらす 「あの時さんは何処にどうしていさんすことじゃやら ま一度顔が見たい逢いたいわなあ」 昨日の花は今日の夢 廓の恋の悲しみを今に伝えてなおいとし 「はい お酌」

小唄「初雪」のように、いい仲の二人の逢瀬。雪が段々と大粒になり、それをいいことに段々と深まる二人の逢瀬。廓言葉のセリフから、古の吉原の世界に引きずり込まれるものの、最後の「はい お酌」で今に引き戻される。この「はい お酌」がいいんだんなあ。これは、ベトベトした口調ではなく、あっさりと。酒の機嫌で古の廓に思いを馳せている男を、一瞬で現実に引き戻すくらいのあっさり感が丁度良いと思う。

 

大雪

多摩での大雪、前回はというと2013年1月の雪ということになると思う。この日は、茶道宗徧流家元の初釜最終日。濃茶席のお手伝いをしながら、段々と降り積もる雪を眺めて「雪の初釜っていいですね」と呑気なことを言っていられたのも午前のうち。午後になると、鎌倉駅からのバスも運休。一本道は大渋滞。タクシーも見つからず駅から歩いて来庵されたお客様も。何とかたどり着けた数名のお客様と、炉を丸く囲んでの濃茶。野趣溢れる・・・と言えば聞こえはいいのですが。

全席終了して後片付けを済ませ、引き上げる頃には雪は止み道路も何とか走れる状態に。お手伝いの先生方を鎌倉駅までピストン輸送し、杉並の先生を乗せて鎌倉を出発。この時、タイヤはなんと夏用!雪の予報があったため一旦帰宅して、スタッドレスを履いた車で出直すつもりが、子供のイベントとかでスタッドレスは家内に譲り、夏用タイヤで鎌倉に。最悪、どこかでホテルを探せばいいやと軽く考えていたところが、先生を送ることになり、ナビや記憶を駆使してできるだけ坂の緩い道を。一旦止まってしまうと、動けなる恐れもあるので、休憩もせずに運転を続ける。新雪であったことが幸いして、何とか無事先生を送り届け深夜に帰宅。

今思い返しても「奇跡」の生還。こういうリスクは、二度と侵したくないもの。

節分

昨日の寒さは和らぎ、穏やかな冬晴れの八王子です。今日は「節分」。獨楽庵が所在する八王子といえば、「高尾山・薬王院」。節分の今日は、豆まきが盛大に行われているはずです。

明日は立春。獨楽庵の庭の梅も花を咲かせています。茶室に注ぐ日差しもどことなく春めいた気がします。庭も茶室も徐々に春の装いに。と、初音が聞こえました。

梅は咲いたか🎵

いつの間にか庭の梅が咲いていました。今日から2月。春はもうすぐそこまで来ています。

「梅は咲いたか桜はまだかいな 柳たなよなよ風まかせ 山吹や浮気で色ばっかりしょんがいな」

今年は、「初雪」を唄わないまま、「梅」になってしまいました。そうこうしているうちに、「夜桜」になって・・・ まだ、始まって一月ですが、一年は早いですね。

三越劇場

日本橋三越本店内にある「三越劇場」は、古典芸能の聖地と言っても差し支えないでしょう。特に、「小唄」では。

その三越劇場で、令和6年4月14日(日) 小唄松峰派樹立55周年記念演奏会が催されます。小唄は江戸の末に、二代目清元延寿太夫の娘お葉が、二代目延寿太夫贔屓にしていた松平不昧公の歌に節をつけたものが始まりと言われている、三味線邦楽の小曲です。

不昧公の歌は「散るは浮き 散らぬは沈むもみじ葉の 影は高尾か山川の水」。この最後の句を「水の流れに月の影」としたのが秀逸であることは言うまでもありませんが、曲が優れていなければ小唄というジャンルは後世に続かなかったでしょう。何事も先駆けとというのはそういうものなのかもしれません。

翻って、我が松峰派。昭和45年の小唄酣春会にて竹枝せん照が小田将人の詩に曲をつけ「雪灯り」として披露したのが始まり。その翌年、せん照は松峰照を名乗り「松峰派」を樹立します。その様子については、小唄の先哲 八海老人のブログがふるっているので、ご参照ください。

4月14日の記念演奏会は、全番組松峰派のオリジナル曲。私は第一部で「雨の宿」「一人暮らし」を、番外で「未練酒」「好きなのよ」を唄います。番外は、八王子芸者の小唄振りつき。お近くにお越しの節には是非お立ち寄りくださいませ。

茶道宗徧流初釜

今週は、茶道宗徧流御宗家の初釜です。数年前から、広間に大勢のお客様をお招きするのではなく小間で限られたお客様と濃密な時間を共有する形式に変わりました。宗家が小間で初釜をなさるのが茶道界広しと言え宗徧流だけなのではないでしょうか。

私は19日(金)にお呼ばれです。その前に、半東を勤めなければなりませんが。鎌倉の人気店「北じま」の点心を頂いて、不審庵でお家元の練られた濃茶を頂きます。今年も実り多い年でありますように。

11年前の関東地方は、大雪でした。決死の覚悟で帰宅したことを思い出しました。大雪に遭遇してらっしゃる能登地震被災者の皆様に改めて心よりお見舞い申し上げます。

初雪

昨日、東京も初雪が降りました。例年より10日遅い初雪だったそうです。ここ数日、日中は冷え込みを感じますが、それでも暖かいのですね。

有名な小唄に「初雪」があります。小唄を習ったことがある人でしたら、よくご存知だと思います。

「初雪に降りこめられて向島 二人が中に置炬燵 酒の機嫌の爪弾きは 好いた同士の差し向かい 嘘が浮世か浮世が実か 誠くらべの胸の胸」
初代清元菊寿太夫詩・曲

いい仲の二人、向島でお忍びで逢っている最中に雪が降り出し、これ幸に?長居しようか・・・という雰囲気です。女の三味線は爪弾き。ということは、唄っているのは小唄です。差し向かいで酒をさしつさされつ、相手の心を探る。小唄の三味線は伴奏ではありません。つかず離れずがいいとされています。だから、お互いの心を探りつつ駆け引きがあるのです。

クラフトビール

鎌倉浄明寺の茶道宗徧流宗家を訪ねる楽しみの一つは、鎌倉駅東口に3軒あるクラフトビールの店。

一軒は、元々アメリカ人が経営していたタップルームを日本人スタッフが引き継いだ(らしい)お店。フードも秀逸だが、ここではビールに集中。二軒目は、小町通りの入り口にあるビルの4階にできたタップルーム。タップの多さが魅力。

三軒目は、二軒目のタップルームが入っているビルの向のビル3階にあるトルコ料理店。この店行くお目当ては、フムスというひよこ豆のペースト。トルコに限らず、中東では最も一般的な食べ物だと思う。イスラエルでは、これをピタにディップ。トルコにはピタはないので、トルコ風パンをオーダーして、これにディップ。もう一つは、ファラフェルという、これもひよこ豆を使った料理。いわば、ひよこ豆のコロッケ。この2皿はクラフトビールに悪魔のように合うので危険。

先日も宗家の帰りに、フムスとファラフェルを肴にクラフトビールを2パイント。

茶道宗徧流義士茶会

茶道宗徧流の流祖・山田宗徧は元禄14年の赤穂事件(いわゆる赤穂浪士討ち入り)に深く関わっていました。そして、吉良家、浅野家双方に茶友、弟子がおりました。その人々が斬り合う事件に遭遇した山田宗徧の心を偲び、また両家で命を落とした人々を霊をともらうため、宗徧流ではこの時期に全国で「義士茶会」を開催しています。

最も大きな「義士茶会」が宗徧流門人会が開催するもので、今年は「どうする家康」にちなんだ訳ではありませんが、静岡市の名亭「浮月楼」に400余名を集めて開催されました。茶道宗徧流十一世家元、幽々斎宗匠が勤められた濃茶席。スターは、先代四方斎宗匠が、父君、八世家元・宗有宗匠をイメージして考案された「天球棚」とそれに寄り添う「天球風炉釜」。トルコを愛し、日土友好に貢献された宗有宗匠。天球棚はモスクをイメージさせます。

写真は、先に終了した青山ワタリウム美術館「山田寅次郎展」に展示された「天球棚」。展示会期間中には、この棚に寄り添う「天球風炉釜」の行方は不明でしたが、その後新潟の門人が所持していることが分かり、静岡で出会うことになりました。

席中では、幽々斎宗匠が赤穂事件に関わる山田宗徧と、それが故の宗徧の苦難をお話されました。赤穂事件の当日は、吉良邸で茶会が開かれていました。正客は、山田宗徧からすれば主君の小笠原長重公。これだけでも、宗徧にとっては大事件です。この時期、どうしても「忠臣蔵」が話題に上り、赤穂浪士=忠義、吉良義央公=悪 という図式になりがちですが、双方に思いを馳せ、霊をともらうことが山田宗徧の意思であり、現代の宗徧流門人だと思うのです。