宗徧流流祖・山田宗徧は、生涯に『茶道要録』、『茶道便蒙抄』二冊の茶道指南書を上梓している。『茶道便蒙抄』は山田宗徧の指導を口述筆記したものと言われている。亭主方、客方、置合図の三部構成。現代を生きる茶道家にとっても興味深いものであるが、まずは客方の一部を紹介しようと思う。
「炭を仕廻ひ膳を出すなり。主からなず膳をすゆるなり。その時かしこまり「御給仕過分のよし」申し。膳を中にて請取り載き下に置く。その時次の客「御給仕は御無用になされ御通ひを必ず御出しあれ」と申してよし。然れども下座までも主膳をすゆるなりその時客一同に。「必ず御通ひの者を御出し候て。御食まいるべき」由を申べし。
炭道具を片付けると亭主が正客に膳を運び出す。その時、次客は「亭主ご自身での給仕はご無用ですから、通いの者(お運び)をお出しください」と断る。この断りは詰客まで同様にするが、亭主は全ての一人で運び出す。詰客まで膳が出されたところで、一同揃って、亭主自らの給仕を断るのであるが、亭主は最後まで一人で給仕すべしと、書かれている。
客は徹頭徹尾、亭主自らの給仕に感謝し亭主を労る。それに対して、全て亭主が一人で給仕してこその侘びなのだと述べている。獨楽庵でもこの気持ちで茶事を進めていきたいと思う。